わが社のIoT導入事例 Part2

特集: IoT/AI活用による金型製造・部品生産技術の新展開

「鋳物町工場のIoTチャレンジ」

 当社は約 20 年前に三重県伊賀市に工場を移転し、 鋳鉄鋳物を製造して創業 62 年を迎えた。生産能力は 月産 500 t、自動車用プレス金型が事業の柱である。 プレス金型メーカーに短納期で鋳物素材を提供するこ とで、日本のモノづくりに貢献し、信頼される鋳造会 社を目指している。 約 20 年前よりフルモールド鋳造法で用いる発泡模 型の製作を内製化した。発泡スチロール加工専用のマ シニングセンタ(MC)を導入し、CAD/CAM を用 いて模型を製作してきた。近年は、IoTチームを発足 させ、さまざまな取組みをしてきたので紹介する。

IoTの取組み背景

 当社は約 15 年前から風力発電用ハウジングを量産 鋳造してきた。しかし、リーマン・ショック後に生産 量は激減し、以前より開発していたフルモールド鋳造 法で多品種少量生産に特化することで、生き残りを図 る必要に迫られた。 また、若年層や外国人作業者の比率が増えたことで、 技術の指導、作業標準化のための対策が必要になって いる。さらに、近年インターネット・クラウドサービ スが充実してきたことを背景に、大企業のみならず中 小企業でも業務のデジタル化や IoT、ICTの導入が 活発化している。 当社の課題を以下にあげる。

① 多品種少量生産に取り組む際に、不確定要素の 多いアナログ業務は品質の安定化が難しく、デジ タル環境を整えて品質の安定と業務の効率化を図 る必要があった。

② 年齢や国籍を問わず、作業のばらつきを抑える 標準化の整備が必要だった。

③ インターネット・クラウドサービスの活用によ り社内外問わず、常に最新情報を共有するために、 できる限り低コストで効率的な環境を整えること が急務であった。

生産現場のデジタル化: 高品質な製品を効率的に生産するために

 当初、フルモールド鋳造法の発泡模型は、手づくり で外注に頼るところがあり、繁忙期には模型供給が追 いつかず生産遅れが生じていた。そこで、CAD/CAM、 MC を導入し、模型から鋳物まで 100% 社内生産に 切り替え、高品質とスピードの両立を目指した。現在、 最新の MC を 4 台保有し、模型はすべて社内生産に 切り替えた。 次に鋳造対策のデジタル化を進めた。ひずみ、ひけ 巣、残渣欠陥対策は、熟練作業者が発泡模型の現物を 確認しながら検討する必要があり、複雑形状になるほ ど対策が必要でタイムロスが発生していた。そこで、 鋳造解析ソフトを導入し、発泡模型の製作と同時に鋳 造対策を可能にした。近年では、3 次元モデルの立上 げ時に対策内容を織り込めるため、発泡模型の完成後 スムーズに後工程に回すことが可能となった。 技術指導のデジタル化も推進した。技術指導は、伝 え手側と受け手側との世代、用語、言語などのギャッ プが弊害となり、指導に時間がかかり、作業レベルの 均一化が図りにくかった。そこで、担当作業者が手順 を示す動画を作成し、またベトナム人実習生には先輩 実習生がベトナム語の吹替えを行い、フォローするこ とで補うようにしている。また、鋳造用語などを覚え てもらう際は、4 択クイズ形式で難易度を変えること でレベルに応じた能力アップを可能にした。現場での コミュニケーションもストレスがなくなってきた。

生産管理のデジタル化:より正確な情報を 全員で共有するために

 帳票のオンライン化を目指した。紙資 料や報告書などは、作業者によって記入 の仕方が異なる。また手書きのため統計 データをとりにくく、紛失、焼失のおそ れもあった。そこで、オンラインの帳票 ソフトを導入、共有の書式を作成しタブ レット型端末から必要事項を入力してい くだけで、帳票が作成され統計データも とりやすくなった。また、製品ごとに QR コードを 付与、帳票ソフトを読み込ませて製品情報が自動入力 されるようにし、現場が嫌がる作業を最小限にした。 進捗管理のオンライン化も進めた。ホワイトボード による進捗管理は、手書きが多くなり読みにくい。部 署ごとに独自のボードで管理するため、進捗状況の食 い違いが発生していた。そこで、製品出荷まで進捗状 況をオンラインで情報管理することにより情報に一貫 性をもたせ、出張先からでも常に最新の進捗状況が確 認できるようになった。

コミュニケーションのデジタル化: ユビキタスな鋳造会社

 確認事項が電話で伝わりにくい場合に、両者が現物 を見て話し合いをする必要があり、両者の都合が合わ ないために解決を先送りせざるを得ないケースが多か った。それに対し、テレビ電話アプリを導入すること で、タブレットや PC を使って各工程から現物を映し ながら話し合いをすることが可能になり、一部のケー スを除いて、その場で解決できるようになった。 長期にわたる育児休業期間、出張中や海外との連携 時など時間・距離の物理的制約により、作業時間や情 報の共有時間が制限されるケースが多々あった。それ に対し、リモートソフトを介して、自宅や出張先、海 外から社内の PC を遠隔操作できるようにすることで、 時間や距離に縛られることなく社内と同等の作業を行 えるようになった。また、ファイル転送機能のあるオ ンラインチャットも導入し、メールを介することなく、 メッセージのやり取りや必要ファイルを社内から外出 先へ送ることができるようになった。

取組みの苦労と工夫

 IoTチームと現場にはさまざまな衝突があった。例 えばタブレットに関することである。鋳造現場に耐え 得るタブレットケースの選定に半年の時間を費やし、 保管場所も最初は決まっておらず、作業場所に置きっ ぱなしのことがあった。帳票ソフトを導入した際も、 「小さな画面にいちいち打ち込めない」との現場の主 張に対して、すべての製品に QR コードをつけるこ とにより入力を最小限にした。 また、タブレットを工場内すべてで活用しているた め、「オンライン帳票などの起動が遅いと待てない」な どクレームが入った。そこで会社全体の Wi-Fi速度 を作成し、電波の弱い個所を補完するこ とを徹底した。

デジタル黎明期は導入コストが高く、選択肢も少な い。大企業が専門チームを組んで運用していたイメー ジが大きかったが、昨今は数多くのサービスやツール が存在し、中小企業でもそれらを組み合わせることで、 低コスト、少人数での IoTチャレンジは可能と思え た。 また取組みの効果として、データ化により全工程の タイムロスを最小限に抑え業務が進むようになった。 何よりも大きな収穫は、今まであまり意見を引き出せ ていなかった若手メンバーから積極的に意見が出るよ うになったことである。この取組みが社内コミュニケ ーションの活性化、社員の自主性向上につながったと 実感した。

光洋鋳造㈱ 白江 肇英